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リズム知覚における小脳と大脳基底核の機能の違い

北海道大学医学研究院神経生理学教室
助教
亀田 将史
周期的な出来事に対してリズムを感じるとき小脳と大脳基底核の活動が増大することが知られていますが、その役割の違いは分かっていません。本研究では、小脳は繰り返される刺激のタイミング予測に関与し、大脳基底核はそれに基づく運動準備に関与していることを明らかにしました。
私たちは周期的な出来事、例えば音楽のビートやネオンの点滅、ブランコの揺れなどに対してリズムを感じます。リズムを感じると、大脳の感覚野だけではなく、補足運動野や小脳、大脳基底核といった運動に関わる領野が活動することが知られており、実際、リズムに合わせて身体の一部が動いてしまうことがよくあります。このことから、リズムを知覚しているとき、脳は周期的な出来事の予測と、それに合わせた運動準備の2つの処理を行なっていると考えられます。
私たちはこれまで、規則的に繰り返される視覚刺激の欠落に対して眼球運動で反応するようにサルを訓練し(欠落オドボール課題)、小脳(歯状核)と大脳基底核の線条体(尾状核)のニューロンが周期的な活動を増大させることを報告してきました。刺激が無いことを検出するためには、刺激のリズムを学習し、そのタイミングを予測し、欠落に対する運動を準備しておく必要があります。本研究では小脳と線条体のもつ情報の違いを明らかにするために、繰り返し刺激と眼球運動の標的を注視点に対して左右に配置しました(図1A)。こうして感覚予測と運動準備の成分を空間的に分離することで、各ニューロンのもつ情報を調べました。
その結果、小脳ニューロンの多くは繰り返し刺激の方向(感覚方向)、線条体ニューロンは標的の方向(運動方向)によって周期活動の大きさを変化させることがわかりました(図1B)。記録した細胞全体でも小脳は感覚方向、線条体は運動方向によって有意に活動を変化させ、小脳と線条体はそれぞれ感覚予測と運動準備の情報を強くもっていることが示されました(図1C)。
これまで人を対象とした機能画像研究や臨床研究により、リズム知覚に小脳や大脳基底核が関与することが知られていましたが、その機能の違いは明らかではありませんでした。今回の結果は、リズム知覚において小脳は刺激タイミングを予測する内部モデルの生成に関与し、線条体はこれに基づいた運動準備に主に関与することが示唆しています。今後は、これらの情報がどのようにして生成されているのか調べる必要があると考えています。この研究成果は、小脳や大脳基底核疾患でみられるリズミカルな運動の障害の神経メカニズムの解明や、その効果的な対処法の開発に将来的に役立つことが期待されます。
Sensory and motor representations of internalized rhythms in the cerebellum and basal ganglia/ Masashi Kameda, Koichiro Niikawa, Akiko Uematsu and Masaki Tanaka/ 2023/ Proc Natl Acad Sci U S A/ https://doi.org/10.1073/pnas.2221641120
<図の説明>
(A)行動課題。サルに中央の赤い点を注視させ、その左右いずれかに眼球運動標的(灰)と一定間隔(2.5 Hz)でフラッシュする視覚刺激(白)を呈示した。繰り返し刺激が1回抜けたらすぐに標的を見るようにサルを訓練した。(B)小脳と線条体の単一ニューロン活動の例。破線は繰り返し刺激、実線は欠落のタイミングを示す。この例では、小脳ニューロンは繰り返し刺激が右に呈示されたとき、線条体ニューロンは標的が左に呈示されたときに周期活動の振幅が増大している(C)一般化線形モデルを用いた感覚・運動成分の比較。全体としても小脳では感覚方向、線条体では運動方向によって周期活動に変化がみられた。
<研究者の声>
大学院生のときから欠落オドボール検出課題を用いた一連の研究に参画してきました。自身が記録を始めた線条体と、先行研究で大前彰吾先生らが報告した小脳核を比較することで研究をより深めることができ嬉しく思います。共に研究を進めてきた新川幸一郎さんと植松明子先生、研究を統括された田中真樹先生にこの場を借りてお礼を申し上げます。
<略歴>
2015年、北海道大学理学部卒業。2015年から同大学大学院医学院でマカクサルを用いた神経生理学研究に従事。2021年3月に博士号取得。2021年4月より現職。
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