[学会について] 会長からのメッセージ

We are in the same boat

日本神経科学学会会長
柚﨑 通介
(慶應義塾大学医学部)
 

 この度、伊佐正前会長の後を受けて、令和二年一月一日付にて日本神経科学学会会長を拝命しました。就任に当たって、本学会についての私の所信を述べさせていただきます。
 私の研究室に新しく参加する人に対する新人歓迎会では、私はいつも「We are in the same boat」という言葉を述べています。学会と研究室では規模はかなり違いますが、基本的には私たちは日本という地域で、同時代に神経科学研究を行っているという意味において、日本神経科学学会という大きな船の乗組員です。この船は一体どこに向かっているのでしょうか?脳・神経系に関する基礎・臨床および応用研究を推進して、その成果を社会に還元し、ひいては人類の福祉や文化に貢献することがゴールであることには間違いないと思います。では、どのようにすればこのゴールを達成できるのでしょうか?「船頭多くして船山に登る」といいます。研究室を主宰する者、あるいは学会の執行部の役割は、個々の乗組員が自分の夢をかなえるために成長し、自己実現を最大化させることを通して、船そのものをより遠い目的地まで到達させることにあると思います。浅学菲才の身でありますが、ぜひ皆さまのお力添えをいただきつつ、日本神経科学学会をより素敵な目的地に到達させたいと思っています。
 本学会は1974 年に約70 名の会員とともに日本神経科学協会として創設され、会員数が約1500 名となった1991 年に会則を整備して現在の日本神経科学学会として発足しました。先人のご努力によって本学会は順調に発展し、現在では6000 名を越える会員を擁します。細かい会則の改正は何度か行ってきていますが、今後数十年先を見据えて、そろそろ船そのもののオーバーホールが必要な時に入っていると私は考えています。
 まず、ダイバーシティへの対応をより推進したいと思います。学会や大会運営について年齢・性別・国籍の多様性は必須です。研究費や研究体制のあり方については、これまでにも若手会員を中心として「ランチョン大討論会」を何度か大会で行ってきました。日本の神経科学を発展させるために必要な改革を、若手会員を含む多様な会員の声を吸い上げながら進めていきたいと思います。そのためには学会の仕組みや会則についても再検討したいと思います。例えば分子・システム・病態・その他という4 つのパネル別の会員設定や、理事・会長の選考方法についても細心かつ大胆な改革が必要と思います。
 次に、中高生や一般の方々へのアウトリーチ活動とともに、政治・経済界へのアドボカシー活動の更なる推進が必須と考えています。私達の研究費を支えるのは税金です。納税者や将来の納税者に対して、脳科学の面白さや重要性、そしてその特殊性を正確に伝える義務が研究者にはあります。近年、社会の複雑化・少子高齢化の背景のもとで、自閉症・注意欠乏多動症候群などの発達障害やパーキンソン病、認知症などの神経変性疾患、統合失調症やうつ病などの精神疾患などが増加の一途をたどっています。もちろん、このような社会的要請に対応した臨床研究や出口に近い研究は重要です。その一方で、結果がすぐに出なくても基礎科学への長期的な投資が必須であり、新しい発見は基礎科学なしには生まれません。とりわけ分子・細胞・回路・個体といった多くの階層を越えたアプローチが必要である脳科学の特殊性について、一般の方々に正しく理解していただく努力が必要です。高校生を対象とした脳科学オリンピック(ブレインビー)は多くの方々のご尽力で軌道に乗りつつあります。NPO法人「脳の世紀推進会議」等とも共同して、より多くの研究者が幅広くアウトリーチ活動を行うことができる仕組みを整備し支援したいと考えています。政治・経済界に対するアドボカシー活動については脳科学関連学会連合と連携して地道な努力を進めたいと思います。
 三つ目には基礎・臨床を含めた関連諸学会との連携を進めるとともに、アジアでのハブとなるべく戦略的な国際化を進めることが重要と考えています。若年人口の減少を背景として、多くの学会において会員数が減少傾向にあります。しかし、神経科学の学際性・分野横断性を考えると、まだまだ国内の基礎・臨床系関連諸学会との連携の促進によって本学会の会員数は増加させることができると考えています。また、北米神経科学学会(SfN)、ヨーロッパ神経科学連合(FENS)に並ぶ、第三極としての日本・中国・韓国等のアジア諸国を巻き込んだ合同神経科学大会の開催についても積極的に推進していきたいと思っています。
 最後に、多くの新しい改革を行うためには財政基盤の確立が必要になります。例えば広報・国際連携・他学会連携の促進のためには事務局機能の強化が必要です。会費収入に加えて、諸外国の学会においては、学会誌の収入が安定的財政基盤の一つとなっています。Neuroscience Research 誌がそのような雑誌となるように、学会を挙げて支援していきたいと考えています。
 科学における日本の国際的プレゼンスの低下が目立つこの頃です。個々の研究者がそれぞれ努力する一方で、同じ船に乗る現世代のみでなくこれからの船員たちのために、より研究しやすく、より成果が挙がって社会に還元できるような環境を皆さまとともに作っていきたいと思います。
 皆さまからの活発なご意見を歓迎します。

 

2020 年1 月 柚﨑 通介

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