[学会について] 理事長からのメッセージ

Our Neuroscience Society

日本神経科学学会理事長
山中宏二
(名古屋大学)
 
このたび、柚﨑 通介前会長の後を受けて、2023年6月29日付にて日本神経科学学会理事長を拝命しました。もとより微力ではありますが、皆様のご支援、ご指導をいただきながら、本学会のさらなる発展と持続性実現のために誠心誠意努めてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。就任に際して、所信を述べさせていただきます。
まず、学会の現状と課題についてお話しします。本学会は1974年に発足し、1991年に会則を定めて日本神経科学学会と改称して活動して来年で50年を迎えます。本学会は、社会的信頼の向上、より公正な運営を確保するために2023年4月に一般社団法人に移行しました。今後、公益財団法人への移行を視野に入れて活動いたします。法人化初年度であるため、運営面で多くの変更が想定されます。適時、会員の皆様にお知らせしてスムーズな移行に努めます。法人化と並行して、評議員制度を導入し、100名の評議員が選ばれました。評議員は若手・中堅を含めた多様性のあるメンバーから構成されており、社員総会で重要事項を審議するとともに、学会運営に協力いただくことを期待しております。評議員から理事が選出されますので、増員が予定される次期評議員選挙にはより多くの会員に立候補いただきたいと思います。また、学会誌Neuroscience Researchの雑誌社との契約更新の時期が近づいています。将来計画委員会のもとに設置した機関誌ワーキンググループ、理事会での議論を通じて、学会誌の存続と発展に向けて努力いたします。これらの諸課題を含めて前理事会・委員会にて進めてきた多くの施策について、その方針をしっかりと引き継いで実現していきます。
次に、ビジョンについてお話しいたします。本学会の役割について改めて考えてみました。学会の中心的事業として年次大会の開催があります。大会では、研究者の発表、真摯な議論を通じた交流、若手育成等の意義がある他に、新しい分野の学びもあると思います。例えば医学部には解剖学、生化学、生理学などの基幹講座がありますが、神経科学に相当する講座や研究科を設けている大学はごくわずかです。本会は、基礎から臨床まで幅広い分野・背景の研究者約6000名が集う最大規模の「神経科学」の学会であることから、神経科学を新たに学びたい学生、若手、異分野の研究者が本会を選び、幅広く学ぶことができる場として初学者、異分野からの新会員に優しい学会でありたいと思います。その活動が、我が国における神経科学の底上げと発展に繋がるものと信じております。
また、神経科学に関する社会に対するアウトリーチ活動、政財界へのアドボカシー活動の推進も重要であると考えます。社会的要請が強い脳疾患の克服や近年著しい発展がみられる人工知能に関する話題などは、メディアに取り上げられやすい傾向があります。一方で、学理を探求する基礎研究への長期的支援がこれらの応用研究に繋がっていることや、人間としての活動の基盤となる脳を研究する神経科学の特殊性について理解してもらうための継続的努力が重要です。これらの観点から、脳科学オリンピック事業へ参加する高校生に対する支援やNPO「脳の世紀推進会議」、脳科学関連学会連合等との連携を続けてまいります。
本会はダイバーシティに配慮した運営を行っていますが、研究分野のタイバーシティも持続性を実現するうえで重要です。神経科学には情報学等との融合研究や精神・神経疾患を研究する病態研究も含まれます。幅広いバックグラウンドを有する国内外の会員を増やす努力を通じて、学問的多様性を図って参りたいと思います。多様性の観点から、基礎・臨床の関連学会や産業界との連携を進めていくことや、本会が重点的に取り組んできた国際化について引き続き推進すべきと考えます。本学会と北米神経科学学会(SfN)、ヨーロッパ神経科学連合(FENS)との連携に加えてアジア(日本・中国・韓国等)での連携の取組みが進んでいます。アジアが欧米に次いで神経科学の第3極としての地位を確立するうえで、本学会が重要な役割を担うものと考えています。海外正会員数や大会の海外参加者も増加しており、今後の伸びが期待されるところです。連携と多様性の強化を通じて、本会の持続性を実現していきたいと思います。
最後に、「私たちの学会」という視点から、会員一人一人が日本神経科学学会に何を期待するのか、どうあるべきかを一緒に考えていきたいと思います。大会や学会誌における研究発表や議論、会員間の交流を通じた研究の連携やキャリアパス形成、社会に対する役割など、本学会には多くの公的役割が期待されると思います。その一方で、個人の視点からも将来振り返った際に本学会員となって良かったと思えるように努力したいと思います。研究者数の減少、科学論文全般における日本の地位低下など、学会や研究者と取り巻く環境にとって明るくない話題が近年聞かれます。現役会員はもとより、次世代の会員、研究者にとって、より研究活動が進めやすく、神経科学が社会に理解・支援されるような環境を作ってゆくために、「私たちの学会」の一員として、本学会の運営に対してご支援、ご協力をお願いいたします。
コロナ禍から3年が経過して、年次大会も本格的に現地開催となり、対面にてお会いする機会は多くなります。ぜひ、ご意見を聞かせて下さい。
2023年6月
山中 宏二

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