SfN Neuroscience 2024 参加記
北海道大学 大学院情報科学院
生体情報工学コース 神経制御工学研究室
吉川隆洋
シカゴで開催されたSfN 53rd Annual Meetingに5日間 (2024/10/5-2024/10/9) 参加しました。今まで国際学会への参加経験はなく、特にSfNは世界最大級の神経科学学会ということもあり、ずっと参加してみたいと思っていました。円安やアメリカの物価高が厳しい昨今ですので、 JNS-SfN Travel Award Exchange Program に選んでいただけたことで、金銭的なサポートを受けられたのは非常にありがたかったです。また、それ以上に、他の受賞者との交流の機会を得ることができ、一人で大会に参加した自分としては安心して学会を楽しむことができました。
学会会場(McCormick Place, Chicago, IL)
大会初日、SfNがチャーターしているシャトルバスで会場へ向かいました(バスは大会期間中何度も利用したので、非常にお世話になりました)。午前9時には、米国外のトラベルアワード受賞者のみが参加するオリエンテーションがありました。ここで初めてJNSから来た他の受賞者の方とお会いし、連絡先を交換しました。そのまま皆さんと最初のレクチャーに参加しました。レクチャー会場は圧倒されるほどに広い会場でした。レクチャーのテーマは芸術と神経科学の境界領域であるNeuroArtsで、Susan Magsamen 先生の幼少期の体験を交えた視覚的芸術に関する話が非常に興味深かったです。また、レクチャーの最中には、聴講者に配られたカズー(kazoo)という楽器を使って、会場全体で曲を演奏するという催しもありました。このようなことをする学会発表はアメリカでも多くはないと思いますが、日本にはない寛容で楽しげな雰囲気に異国情緒を感じました。
左:受賞者との集合写真、右上:カントリー系バンドによる演奏、右下:会場で配られたSfNロゴ入りカズー
私は初日がポスター発表だったので、レクチャーの後に昼食をとり、ポスター会場へ向かいました。ポスター会場も終わりが見えないくらいに広く、自分のボードを見つけるのに一苦労しました。発表では多くの方が見に来てくれて、たくさんの情報交換ができただけではなく、英会話の練習にもなりました。もともと英会話は得意でしたが、今回の大会参加でかなり自信がついたので、海外キャリアをもっと真面目に考えようという思いが強まりました。同日の夜にはトラベルアワード受賞者のみが参加するポスターセッションもあり、他国のPhDやポスドクの方のお話を伺える貴重な機会となりました。
全ての発表を初日で終えたので、2日目以降は聴講に集中することができました。セッションの数は膨大なので、興味のあるキーワードをミーティングプランナー(公式スマホアプリ)に入力し、聞きたい発表の「Schedule」ボタンを押して計画を立てました。実際に聴講してみて、興味のあった発表はブックマークをつけ、大会終了後も見返せるようにしました。また、参加者が持っている参加証にはQRコードがついていて、ディスカッションの最後にスキャンしあったりすることもありました。私自身アプリ開発が趣味なので、大会で使用したミーティングプランナーなどのシステムに施されている工夫が非常に勉強になりました。
左:PosterとExhibitionの会場入り口、右:トラベルアワード受賞者は参加証にリボンがつきます
聴講したセッションの中でも印象に残っているのは、Allen Instituteの発表でした。2日目にあったレクチャーでは、Allen Instituteの取り組みの紹介がありました。私はAllen Instituteについて詳しくなかったのですが、オープンソースの神経科学ツールを提供するという取り組みには、一人のエンジニアとして大変共感しました。また、ポスターセッションでもAllen Instituteの研究員による発表がいくつもあり、特に神経データの取り扱いに関する発表(クラウドを利用したコラボラティブなデータ解析システムや、実験手法をオープンにするためのメタデータスキーマなど)は、神経科学に限らず、実験科学が真に再現的になる未来を見させてくれる、興味深い内容でした。昨今の生成AIやロボティクスの発展も併せて考えると、仮説設定から実験解析までをシステムが行う「人が介在しない科学」の仕組みがより具体性を増してきていると感じました。神経科学の学会に参加したとは思えない壮大な感想になりましたが、もちろん、自分の研究分野である脳刺激や聴覚系に関連した知見も数多く得ることができました。
いろんな方面で大きな刺激を得ることができ、とても有意義な5日間を過ごすことができました。ご支援いただいたJNSおよびSfNの関係者の皆様、日頃よりご指導いただいている舘野高先生、西川淳先生、そして神経制御工学研究室のメンバーに、厚く御礼申し上げます。
左:空港からダウンタウンへ向かう電車、右上:上空から見たダウンタウンとミシガン湖(360 Chicagoにて)、右下:受賞者の方々とGiordano’sでシカゴピザを食べました