Neuroscience Research 編集主幹を退任するにあたり
1984年に伊藤正男先生が創刊されたNeuroscience Research(NSR)誌は、日本神経科学学会の機関誌として国際的な研究発表と活発な議論の場を提供し、本学術分野の発展に貢献してきました。2017年1月から2期6年間にわたり編集主幹という大役を仰せつかりましたことは、私にとって身に余る光栄であるとともに、その重責を強く感じて参りました。本学会会員の皆様には、数多くの優れた論文を投稿いただき、また査読者としてもご尽力いただきましたことに、心より感謝申し上げます。お蔭をもちまして、本誌の円滑な運営と学術的な価値向上を実現することができました。
NSR誌のこの6年間の活動として、著名な賞を受賞された先生方や独創的な研究を展開されている若手研究者にお願いして、最先端の研究分野へ切り込んだ総説を数多く執筆いただきました。また特集号を年3号まで増やし、神経科学分野の重要テーマを牽引する研究者にゲストエディターを委嘱して、当該テーマを多角的に議論していただきました。特に、神経科学関連の新学術領域研究の代表にゲストエディターをお願いして領域の成果を纏めた特集号(計4号)を発刊したことにより、日本の大型研究プロジェクトの海外への発信にも貢献できたと自負しております。このような取り組みの甲斐もあり、本誌への投稿数はこの6年間で約1.5倍となり、インパクトファクター等の各種評価指標を上昇軌道に乗せることができました。2021年にはエルゼビアの協賛でNSR論文賞を創設して、優れた原著論文の表彰を開始いたしました。NSR論文賞は特に若手研究者の業績を顕彰する絶好の機会ですので、今後も皆様の研究成果を発表する場として本誌をご活用ください。研究室を主宰する先生方におかれましては、論文の投稿先として本誌を検討くださりますようお願い申し上げます。
NSR編集部は本誌の認知度を高めるために国内外でさまざまな広報活動を続けて参りましたが、科学ジャーナルとしての価値向上には掲載論文の被引用数をさらに増やすことが不可欠です。本誌は、日本神経科学学会の会員を中心とする専門家からの論文を掲載しており、年次大会などで目にした馴染みのある研究も多数紹介しているはずです。毎月の目次配信あるいはNSRホームページ“Articles in press”などから最新の論文を検索いただき、ご自身の研究に関連するNSR論文を積極的に引用してくださると幸甚に存じます。本誌の評価をさらに高めるためにも、皆様のご協力を何卒お願い申し上げます。
NSR誌への投稿数を国別に分析しますと、日本を含むアジアからの投稿が多く、欧米からの投稿が伸び悩んでいる状況です。2023年1月にはThomas McHughが編集主幹に就任し、欧米の神経科学コミュニティとのコネクションを活かした新たなジャーナル運営が期待されています。Thomas McHughは本学会の若い会員を多く含む著名な神経科学者を新ボードメンバーとして迎え、さらなる国際化を目指して強力な体制で編集業務を引き継ぎますので、皆様から益々のご支援を賜れますと幸いでございます。
最後になりましたが、これまでNSR誌の編集業務にご尽力くださりました旧ボードメンバーの方々に心より感謝いたします。
上口裕之
理化学研究所 脳神経科学研究センター