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小型魚類を用いた神経精神疾患研究

この度は、平成28年度日本神経科学会奨励賞を賜り大変光栄に存じます。選考委員の先生方と神経科学学会関係者の方々に心より御礼申し上げます。
 今回の受賞内容となる研究活動は、私を小型魚類の世界に導入していただきかつこれまでの研究活動を様々な面からサポートしてくださった高橋良輔教授(京都大学大学院医学研究科臨床神経学)を初め、Reinhard W. Köster教授(ドイツTU Braunschweig、Cellular and Molecular Neurobiology分野)、亀山正邦元名誉院長・宇高不可思副院長(財団法人住友病院)など様々な先生方の御指導のもとで行われました。これまで指導賜りました多くの先生方、共同研究者の皆様、研究に協力して下さったスタッフの方々に、この場をお借りして深く感謝の意を述べさせて頂きたいと思います。
 私はもともと神経内科医であり、今でも難病の多い神経精神疾患をどうやったら治療できるかということばかり考えています。住友病院神経内科在籍時にマウスではパーキンソン病のモデルの作製が非常に困難であることを知り、既存の疾患モデルではないものを使用した研究を行いたいという強い気持ちを当時京都大学神経内科の教授に就任されたばかりの高橋教授へのお手紙へしたためました。ちょうどその頃、京都大学の放射線遺伝学教室において武田俊一教授と谷口善仁助教(現杏林大学医学部教授)がメダカのKOライブラリーの提供をされており、大学院博士課程入学後はメダカを神経精神疾患のモデルとして使用することを開始しました。
 研究開始当初は困難の連続で、どうやって行動を解析するか、神経細胞の生死を評価するか、そもそもメダカが仮にパーキンソン病になるとしてどのような症状を呈するのか、わからないことばかりでした。しかし目線を変えればそれは大学院生でありながらパイオニアとしての役割を担えるかもしれないということであり、苦労と期待が毎日入り交じった研究生活でした。やっとの思いでPINK1変異体の表現型を解析しましたが、残念ながらあまり目立った表現型はありませんでした。しかし大学院を卒業する前後には様々な毒物を用いたメダカモデルやPINK1/Parkin二重変異体、ATP13A2変異体などの解析結果を論文にすることができ、少なくとも家族性パーキンソン病のモデルとしてあるいは毒物暴露によるモデルとしてメダカが利用価値があることがわかりました。
 ドイツではパーキンソン病の研究も継続しましたが、主にはゼブラフィッシュの小脳の機能の地図を作製する仕事を行いました。これまでの疾患モデルからのアプローチとは違い、生理現象や発生過程からのアプローチでしたが、ここで小型魚類が可視性に非常に優れたモデル動物であることを実感いたしました。小脳の機能地図をその線維連絡、神経活動、機能制御の面から作製し、結果その地図がヒトのそれと大変類似していることを見いだしました。諸事情で2年で帰国することになりましたが、帰国後幸い同研究がPNASに採択され、後の研究への大きなステップアップへとつながりました。
 帰国後は宮崎大学医学部統合生理学を経て新潟大学超域学術院脳病態解析分野のテニュアトラック准教授に採用していただき、引き続き小型魚類を用いた神経精神疾患の研究を行っています。最近はアフリカに棲息するメダカが孤発性パーキンソン病の症状を呈することを見いだし、鋭意研究を進めています。今後も小型魚類の持つ可視性、多様性を最大限に生かし、他のモデルやヒトでの所見と組み合わせることで、難病とされる疾患の病態の理解と治療開発へと結びつけていく所存です。
 私の一連の研究は、多くの先生方や共同研究者の方々の御指導無しには成し遂げることはできませんでした。京都大学臨床神経学および放射線遺伝学の皆様、TU Braunschweigのスタッフの方々、宮崎大学・新潟大学の先生方およびスタッフの皆様、住友病院の先生方には日頃から多くのことを学ばせていただきました。また臨床をやめ基礎研究に専念すると伝えたときに、大半の患者さんが別れを惜しみつつも贈ってくれた強い応援の言葉が今でも私の背中を推しています。最後になりますが、今後とも日本神経科学会会員の皆様の御指導・御鞭撻を賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。

受賞研究内容を議論する総説(Neuroscience Research掲載)
Matsui, H., 2017. The use of fish models to study human neurological disorders. Neurosci. Res. 120, 1-7.

略歴
2001年 京都大学医学部卒業、その後京都大学神経内科に入局し、京都大学医学部付属病院や財団法人住友病院にて勤務。
2006年〜2010年 京都大学大学院医学研究科博士課程(臨床神経学、高橋良輔教授)。2010年修了、博士(医学)。
2011年〜2012年ドイツTechnical University Braunschweig、Zoological Institute, Department of Cellular and Molecular Neurobiology(Reinhard Köster教授) にて博士研究員。
2013年宮崎大学医学部機能制御学講座統合生理学博士研究員、2014年同助教。
2016年より新潟大学超域学術院脳病態解析分野 テニュアトラック准教授(現職)。


写真の説明
京都大学臨床神経学第四研究室にて高橋良輔教授とラボメンバーとの写真。前列右端が高橋教授、全体の左端が松井。

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